アメリカでは2つの研究施設、国立老化研究所(NIA)が1987年から、ウィスコンシン大学(WNPRC)が1989年から、進化的にヒトに近いアカゲザルを使ったカロリー制限の研究を行ってきました。
2009年、WNPRCの研究成果が米サイエンスに掲載され
20年間にわたり、大人(7~14歳)のアカゲザルの1グループに、普通食よりカロリーが30%低い食事を与え、カロリー制限のないグループと比較。
カロリー制限群は見た目も若々しく、寿命が延びたことが分かりました。
しかし、自由摂取群とカロリー制限群での生存率の違いは、加齢関連疾患(がん、心臓病、糖尿病)による死亡の場合でのみ認められ、全ての死亡原因で比較すると両者で違いは見られませんでした。
2012年、NIAが英ネイチャー誌に掲載した研究報告は、
カロリー制限を老齢(16~23歳)から開始した群(カロリー制限群と自由摂取群)と若齢(1~14歳)から開始した群(カロリー制限群と自由摂取群)の2つの実験結果です。
老齢から開始したカロリー制限群(自由摂取群の20%減)と自由摂取群での生存率は、加齢関連疾患による死亡の場合でも、全ての死亡原因で比較した場合でも、カロリー制限群と自由摂取群で違いは見られませんでした。
次に、若齢から開始したカロリー制限群(自由摂取量の20%減)でも老齢から開始した時と同様に、加齢関連疾患による死亡の場合でも、全ての死亡原因で比較した場合でも、自由摂取群と比較して生存率に違いは見られませんでした。
では、どうしてWNPRCとNIAの実験で結果の違いが生じたのか?
WNPRCとNIAの実験を比較したとき、最も顕著な違いは餌の成分でした。
WNPRCの実験ではカロリー制限群と自由摂取群で違う餌を与え、カロリー制限群のみにビタミンやミネラルを加え、自由摂取群には加えていませんでした。
一方、NIAの餌にはカロリー制限群と自由摂取群の両方で食事摂取基準(米国)の40%増しのビタミンやミネラルが加えられていました。
また糖質の量はWNPRCの実験では餌に28.5%の糖質が含まれていますが、NIAの実験ではたったの3.9%でした。 この違いは糖尿病の発症率にも大きく影響しているかも知れません。
そしてNIAの実験での自由摂取群は好きなだけ餌を自由摂取していたのではなく、決められた量の餌を摂取していました。
一方、WNPRCの実験では好きなだけ自由摂取させていました。これは、NIAの実験では自由摂取群がわずかにカロリー制限群になっていた可能性も否定できません。
さらに2014年4月、WNPRCの研究グループがの英のオンライン学術誌Nature Communicationsで、25年間のアカゲザルの食事制限研究結果を発表しました。
これによるとカロリー制限しなかったサルは、30%のカロリー制限をしたサルに比べて、病気のリスクは2.9倍、死亡のリスクが3倍増加する
という結果でした。
健康のためには単なる“カロリー制限”ではなく、
「質の良い食事を、適度に食べる」
のが健康維持に効果的であることが今回の論文から学び取れると思います。